FRONTL1NEによく訪れていただいている読者の方なら一度は「デモシーン」や「メガデモ」、「デモパーティ」や「64K Intro」みたいな単語を見かけたことがあると思います。
これらは全て、コンピューターを使った遊びの一つである「デモシーン」というサブカルチャーに繋がっています。
この記事ではデモシーンを知らない方々のために楽しいデモシーンの世界を紹介します。
デモシーンとは何か
↑ デモシーンについて知りたいならデモシーンのドキュメンタリーであるMoleman 2を見ることを強くおすすめします。(日本語字幕あります)
日本では「デモシーン」よりも「メガデモ」という言葉を聞いたことある人が多いと思います。
「デモシーン」とはコンピューターを使用した遊びの一つで、コンピューターがリアルタイムに映像や音楽を生成するプログラムを作ったり、それを見て楽しんだりします。 このプログラム(作品)を「デモ」と言います。
つまり、「デモシーン」は「デモ」を作ったり、見たりして楽しむことが中心にあるコンピューターのサブカルチャーです。
↑ Conspiracyの64KB Intro – When Silence Dims The Stars Above (2018)
デモ作品は普通の映像作品とは違い、mp4のような映像ファイルではなくゲームのように実行ファイル(.exe)を実行することでコンピューターが映像や音楽を生成します。
また。この実行ファイルが64KBのような普通では考えられないようなとても小さいサイズのものもあります。
64KBでピント来ない人のために補足をすると64KBでは音楽ファイル4秒相当、もしくは動画ファイル0.5秒分くらいしか保存できない容量です。
しかしこの小さな実行ファイルを実行すると、ディスプレイの解像度(HDだろうと4Kだろうと8Kだろうと関係ない)に合わせた5分近い映像と音楽がその場で計算されて画面に表示されます。
有名なデモ作品は国内のニュースサイトでも紹介されたりします。
- わずか177KBなのにすごいメガデモ「fr-041: debris」 | GIGAZINE
- えっこの映像がたったの64KB!? 合計6分以上にも及ぶメガデモ「the timeless」が驚愕のクオリティ | ねとらぼ
より小さな容量をご希望ですか? 256バイトなんかはどうでしょう。
この動画のPuls – ŘrřolaはMS-DOS向けのデモ作品で実行に必要なCOMファイルはたったの256バイトしかありません。
B01353BAC803CD1088D884CB7A05F6E8C1E807F6EB88E0EEB2C9E2ECB1034B75E968CE9F07B756DBE3830058DF00D9FBDCF9DF00D80CD9FEDE0C665A065560891F8B05DF05F7E829174F7BF5DF07668105CDCC0000D8CCD9C0D8CED9CAD8CDDCEAD8CEDEC1D9CA477BEB4F6B100ADF198917023400FB73F699B4E611D9E8150028CCD50404468945FC614526880275AEE460487592B3008B29D3FD31D5012F00FB73F4D6DF1051D3E980C5258B10F71869E800802B297902F7DDD1ED01EA892F00FB73EC39CA407225B3027ADF2B10402B1080EE606BD20D8B14700240992B2F7902F7DD01EA8B2F00FB73F239CA5919D2F518D110D180F906730400D47596C3
あ、これはPulsのバイナリです。
2桁の16進数が1バイトなので512桁のこのバイナリは紛れもなく256バイトだということがわかります。
このバイナリを動かすと上のような映像が生成されます。
…
信じられませんね。
正直バカなのでは?と思います。
あ、さらにバカなものを見てみたいですか?
このCraft – lftは別に容量にこだわった作品ではありません。
代わりに動かすハードウェアにこだわりがあり、自作のハードウェアで動くデモ作品です。
ココで面白いのは使用されているCPUが高性能なものでもなんでもなくて、AVR ATmega88と呼ばれる洗濯機や冷蔵庫などに使用されるような「マイクロコントローラー」で演算がされています。
音楽は疎か、映像を出力することなんか考えられていないものなのに映像と音楽をリアルタイムに生成し動いています。
「ナンダコレ」
デモシーンはココで上げた例のように、技術で人を楽しませるデモ作品を見るということが中心にあります。
デモシーンにはデモを楽しむ人たちが集まるイベント、「デモパーティ」があります。
デモパーティでは来場者がデモ作品を持ってきてコンペティションに参加したり、出てきた作品をみんなで見て楽しんだりする交流の場です。
デモを作ったことがないから馴染めないと言ったことはなく、プログラムや音楽、映像が好きな方であれば楽しめるイベントだと思います。
コンペティションは来場者がそれぞれの作品に投票するという形式が取られているのでどの作品が優勝するのかなどは運営もわかりません、それどころか運営チームがあっと驚くような作品も非常に多く出てきます。
国内ではTokyo Demo Festが日本唯一のデモパーティとして存在し、年に一回、冬ごろ(12月 – 3月)に行われています。
ここまでで、デモシーンの概要を軽く説明しました。
続いて、デモシーンの起源などを説明したいと思います。
デモシーンの起源
↑C64でリリースされたクラックトロ(Cracktro)作品
デモシーンの起源は1980年代あたりにヨーロッパでC64などの8ビットコンピューターが流行ったところから始まります。
冬のヨーロッパは寒いため、家にこもってコンピューターゲームなどでみんな遊んでいたのですが、やがてゲームをはじめとしたソフトウェアのコピー(海賊版)を作られるようになります。このソフトウェアのコピーなどを「クラッキング(Cracking)」と言います。
そしてクラックしたゲームソフトを知人の間で交換するようになるのですが、その際にゲームのスタッフクレジットを自分の名前に書き換えたり、ハイスコアのリストに自分の得点と名前を入れたりして、自分がクラックしたということを自慢し始めました。
その後スタッフクレジットの書き換えなどでは飽き足らず、ゲームの起動前に画像を表示させるようになりました。ここにテキストスクロールやグリーティングメッセージ(他のグループの名前を作品に入れて賞賛を送る)などが入るようになり複雑化しました。
これが「イントロ(Intro)」です。
↑ The Black LotusによるAmigaデモStarstruck
やがて、グループを結成してゲームのクラッキングに加え、格好いいイントロを作るようになり、そうしているうちにゲームそのものをプレイせずにイントロだけを見る人が増えてくるようになりました。
ものによってはイントロがゲームのクオリティを超えているものも多々出てくるようになり、ゲームそのものは必要なくなりました。
これがデモシーン誕生の瞬間です。
これ以降クラックしたゲームのに付随するイントロを「クラックトロ(Cracktro)」と区別するようになりました。
現代に置けるデモシーン
↑ Assembly 2019の優勝作品 Number One / Another One – CNCD Fairlight
現代のデモシーンは昔の8ビットコンピューターに代わりWindowsが搭載された通常のPC向けの作品が多数発表されています。
昔のコンピューターであれば性能がそこまで良いわけではなかったのでハードウェアの制約が常についてきましたが、現代のコンピューターであればハードウェアの制約がきついと感じることはかなり少なくなったと思います。
また、デモシーンの世界で使われるPCはゲーム用のPCと同じような高性能なものがよく使われます。 (今で言えば i7 + RTX2080など)
デモ作品のクオリティも上がりまくり、今流行りのリアルタイムレイトレーシングを中心とした作品もあります。
↑ Revision 2019 64k Intro部門の優勝作品 Dopr on Wax – Logicoma
そういったハードウェアの制約がなくなった代わりに実行ファイルのサイズも巨大になる傾向がありました。
そこでハードウェアではなくソフトウェアの制約として容量の制限を設けるようになります。
64KBの単一の実行ファイルから実行される作品を「64KBイントロ (64KB Intro)」もしくは「64Kイントロ (64k Intro)」と呼び、
4KBの単一の実行ファイルから実行される作品を「4KBイントロ (4KB Intro)」もしくは「4Kイントロ (4k Intro)」と呼ぶようになりました。
容量制限がないものや、単一の実行ファイルでないものは単純に「デモ(Demo)」と呼ばれます。
↑ The Black Lotus – Eon – Amiga Demo (2019)
プラットフォームはPCだけに限らず、デモシーンが盛り上がるきっかけにもなったAMIGA(アミガ)やメガドライブやファミコンなど向けにもデモは作成されています。
AMIGAで作られた作品は 「Amiga Demo」や「Amiga 64k Intro」のように記載され、PCベースの作品は「PC Demo」や「PC 64k Intro」のように表記されることもあります。
その他にもC64やファミコンなどの過去のプラットフォームを「オールドスクール(Oldskool)」といい、それらの作品を「Oldskool Demo」や「Oldskool 64K Intro」のように表記することもあります。
↑ Tokyo Demo Fest 2018でリリースされた Modern Yet So Retro – Laxer 3A
また、自作のハードウェアなどで何ができるのかを競うカテゴリーもあります。
記事の1章で紹介したマイクロプロセッサーを使用した自作ハードウェアや上の動画のようなFPGAを使用したデモなど、他のカテゴリーなどに合致しないけどすごいものを見せるためのカテゴリー「ワイルド(Wild)」というものもあります。
デモ作品の最新情報などはデモシーンのポータルサイトである
などで入手できる他、このFRONTL1NEでも随時デモシーンに関係する記事を投稿していく予定です。
Freax: The Brief History of the Computer Demoscene (English Edition)
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